松中信彦,引退

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2016年03月02日

平成唯一の三冠王、最後まで引退に抗い続けた松中信彦選手

logo-hawks.gifのサムネール画像2016年3月1日、福岡市にあるトータルワークアウト(松中選手の個人トレーナー・ケビン山崎氏のジム)というジムで松中信彦選手の引退会見が行われた。本来であればジムではなく、やはりホークスの球団事務所やヤフオクドームで行われるべき会見だった。しかし松中選手は2015年10月にホークスを自由契約となっており、現在はホークス球団とは無関係というスタンスとなっている。

無関係と言うとシビア過ぎる表現になってしまうが、しかし松中選手は他球団にプレーする場を求め、ホークスを飛び出して行った。この状況下で松中選手がホークスに会見場の提供を求めることは、心境的に難しかったのだろう。だが仮に松中選手が求めたとすれば、ホークスはきっと快く場の提供を約束してくれたはずだ。

もはや改めて書き記す必要がないほど、松中選手は偉大なプレイヤーだ。2004年、松中選手は三冠王に輝いている。この記録は今なお平成唯一の三冠王となるわけだが、それどころか三冠王が誕生したこと自体、1986年の落合博満選手とバース選手以来、18年振りの出来事だった。

筆者が一番印象に残っている松中選手の姿は、2005年7月15日の西武ライオンズとのホームゲームで松坂大輔投手から3本塁打した時の姿だ。1本目はその初球、松坂投手は外角低めにストレートを投じたが、松中選手はそれを左中間の一番深いところへスタンドインさせた。

2打席目は内角へのストレート。だが松坂投手のボールはほんの僅か、ミットよりも真ん中寄りに行ってしまった。松中選手はそれを振り抜き、打球は弾丸ライナーでライトスタンドへと突き刺さっていく。

そして3本目も内角へのストレート。2本目を打たれた時に狙ったコースよりも、ミットはさらに厳しいところに構えられていた。恐らくボール球を投げたかったのではないだろうか。いや、もしかしたら見逃せばボールだったかもしれない。それほど厳しいコースに行ったストレートだった。これも迷わず振り抜くと、打球はライトポール際へと吸い込まれていく。松中選手は、球界のエース松坂大輔投手から1試合で3本塁打という離れ業をやってのけたのだ。

なお当時の王貞治監督は、松中選手に対しとにかく松坂投手のストレートを狙うようにとアドバイスを送っていたようだ。そのアドバイスに忠実に従ったことにより生まれた3本塁打だった。この時の松中選手の姿は、ホークスファンならずとも目に焼き付いているのではないだろうか。本当に見事な、まさに完璧な3本塁打だった。

松中選手の晩年は膝痛との戦いだった。満足に走ることもできない時期もあり、ほとんどが指名打者としての出場となっていった。144試合のフル出場を果たした翌年、2009年以降は出場試合数も年々減っていき、成績も下降線を辿っていた。それはもちろん膝痛との戦いも大きな原因だったわけだが、年齢的な肉体の衰えも隠すことはできなかった。最後に打ったホームランも2012年の4本が最後だ。

そう、2005年には球界のエースから1試合で3本塁打放っていた男も、2012年には年間で4本しか打てなくなっていたのだ。力の衰えは顕著だった。だがそれでも松中選手は最後の最後まで現役にこだわり続けた。この泥臭さこそ、松中選手の魅力ではないだろうか。満身創痍で体がボロボロだったはずだ。それでもこのオフはホークスの後輩たちとグアムで合同自主トレを行い、バットを振り続けた。

その元気な姿は連日報道されていたが、しかしそれでも松中選手の獲得に手を挙げる球団はなく、それどころかキャンプで入団テストをしてもらうことさえ叶わなかった。この時ばかりは体だけではなく、きっと心もボロボロになっていたのだろう。2月29日をタイムリミットとしていたが、引退はきっともっと早くに決断していたはずだ。

近年のプロ野球選手はハングリー精神が足りないと言われ続けている。確かにアメリカのマイナーリーガーたちのハングリーさに比べれば、日本プロ野球の2軍環境は恵まれ過ぎている。ハングリー精神が育たないことにも納得だ。しかしそれでも最後の最後まで野球選手としてあがき、ハングリー精神を持ち続けたのが松中信彦選手だ。成績面だけではなく、野球選手という生き方を貫いたこの姿もまた、松中選手の大きな功績とは言えないだろうか。

松中選手にはいつか、指導者としてまたホークスに戻ってきてもらいたい。そして松中選手自身が新たな目標としたように、松中選手以来の三冠王を指導者として誕生させてもらいたい。そしてこれこそが、これからの松中選手の生きる道なのだろうと感慨深さに浸る筆者なのであった。






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